一人一宇宙①。
「衝撃波!来ます!!」
「艦板!備えろ!!」
「・・・ぶっふお!?」
あたかも、激流に揉まれる木の葉の如く揺さぶられる宇宙戦艦。
かつて、大海で勇猛を以て知られた巨大なガレオン船にちなんで建造された旗船とて、敵の無重力フォトンパワード・ オフトゥンの前には無力なのだろうか…。
しかし、一つだけ言えることがある。
今のうちだ、言っちまえ。どうせ誰の記憶にも残らない。
何となくカッコいい、中二病っぽいカタカナ文字をあてたネ―ミングであれば万事解決か、と問われれば全くそんなことはなく、大宇宙の360度全方位からの非難を轟々浴びたとて、何を言い返しても弁解にすらならないほどには十分に複雑かつセンシティブな御事情を、敵戦力である帝国軍側は抱えていたと言っていい。
ここはバトランティス帝国軍総督、ジ・アブドゥラ・ハマン=カンダタの座す指揮管制塔にある総督室。
彼は戦況を冷静に見つめ、艦下にあるクラインの壺・・・を模したつもりが、どこからどう見てもしびんにしか見えない体の透明かつ巨大な容器へ向け、また新たな屁を装填する。
管制塔の総督室に、いい感じでいい感じの放屁音が響いた。彼はその行為をなぜか"終活"と称していた。
そして、下っ腹にしこたま溜まった、腸内で熟成発酵した屁を肛門から絞り出すと、解放感からと地球の木っ端共を蹴散らすガスをひり出す地獄の門番として、愉悦の笑みを浮かべる。
そしてそして、地球に住まう者ならばみな口を揃えて言うであろうが、彼らバトランティス帝国側の人間には知る由もない、次のようなフレ―ズをわれわれは想起せざるを得ないのだった。
「ドリフのコントかよ!?」
どうせ誰の記憶にも残らない。宇宙は広いのだ。総督はいつも開き直っている。
「終・活!!」
ドボォ!!(放屁音)
怠惰は大罪だと思う。アレだその、「クラインの壺」を模してるワケだから、たま~に戻ってくるのよね、総督の屁が。
困ったものである。この屁こき丸が。
湿った屁。音は小さく、ぬめった感が強く、何より臭い。
乾いた屁。それはたとえるならば一陣の風小僧。時たまJKのスカートをめくり上げる作用を持ち合わせることもあるが、それが屁では普通なら、気まずい。
「この炎を飛び越えて来い!飛び越えて来たなら…。」
カンダタは呼び掛け、挑発する。
彼の偉容が"粋で鯔背な"地球防衛軍の主力艦隊と指揮艦ソドムの管制モニタに映し出される。そして不敵な笑みを浮かべ、股間のタムシを気にしている。
「うう…。」
「臭そうやな。」
「フォトンベルトか何かのつもりか!!」
「うう…。駆除してえ…。」
バトランティス帝国軍と地球防衛軍のおのおの陣取るちょうど内分点7:3くらいの所に、不知火のようなかがり火がちろちろと横に列をなしている。その色はどことなく黄色っぽかった。
「艦長…。もうダメです。まさか自分の屁を武器に転用してくる敵がここまで脅威たり得るとは…。
戦闘員総員、いやその特には実害は出てないんスけど、ガスマスクがちいせえとか、オレの屁の方がもっとくせえ!!とかの不平不満愚痴文句や意味不明のマウンティング合戦などが噴出しまた、戦意を削がれウノなどに興じたり、FANピーZAにのめり込んだりと、思い思いの余暇を楽しんでおります!!」
「・・・。総員給与一律3割カ―ット!!!」
ビシイッ!!
戦闘員はすぐさま配置につき、きびきびと働き出した。現金なものである。
一方その頃。
地球側の親善大使カルロスサン=タ―ナ―氏(54)がだんびらを右手に、左手にスマホを持ち、慣れた手つきでヒズ・フェイバリット・AVをFANピーZAのお気に入りリストに次々にぶち込み、右足で彼所有のクル―ザ―船の操縦桿を操りながら、約束の地へと刻々と近づいていた。なかなか器用な男である。
しかしながら問題は、本編とはあんまり関係のない話であることだった。
さて。
帝国側と地球側にらみ合うこと、既に宇宙暦的にゆ―と2か月くらい。食糧はイメ―ジを即時的に具現化出来る機能搭載ヘルメットを各人が被っているので、適当にてめえで調達しててめえで食ってたが、なんか性の乱れが双方認められたとかいないとか。
食欲性欲睡眠欲。リビド―は如何ともしがたいのであった。
じゃあ理想の異性を具現化して抱けばいいだろ馬鹿野郎とか思うけどまあそんな中、誰かが提案したのだ。食糧交換と人員の一時トレ―ドをッ。
膠着した戦局はマンネリを招く。異国の、いや異星の文化や風俗、食物、青い果実を味わうのも悪くはない。
「宇宙はエロい。」
「何言ってるんスか、艦長。」
双方の綺麗どころやらイケメンやらが船に乗り込む。別に一時的な敵さん船への平和的な移動と滞在である。手当ても厚い。
そして双方、
「踊り子には合意なしに手を出さない。」
等々と言う盟約が盛られた文書を交わしてもいた。これを違えれば宇宙の恥として、後世まで禍根と汚点を残すことになる。
「男に二言はない。」
双方の長は、固く胸に誓っていた。なんかそ―ゆ―とこは三國志然としている。
チュイ~ン…。
「お!?来たぜ!帝国側のお姉さんたちだ。食いもんとかもうめえらしいぜ!!」
「ヒャッハ―!!かたせ梨乃みてえな女はいるかあ!!」
「こ、こら!待たんか!!持ち場を離れるな!!」
嬉々として戦闘員が敵勢力側の輸送船に近づく。扉が開き、ちょっとばかり大袈裟な演出にも似た勿体をつけた後に、そろそろと女性たちが降りてくる。
「おお…。」
あれだ。ヤ○ク・デ・カルチャーとかのノリの異星人然とは断じてしていない。
さすがは大宇宙に冠たる帝国。人種の坩堝であり、地球人の好みや性癖に刺さる人選をするなど造作もないことなのであった。
(続く)