蒲焼きと檸檬と娘のサロン

「頑張らないうつヌケ」をモットーに。だる~く、ゆる~く、時にはタイトにチートに。

貴様とドナドナ。

「お、おい…。あいつ見ろよ…。

東京最大の族の頭、江藤欣二だ。

な、なんでこんなとこ一人で歩いてんだよ…。」

 

「バ、バカ!視線をあっちに向けるんじゃねぇ!オレらなんざ、あっと言う間にミンチにされちまうぞ!」

 

「あ、ああ!!

 

・・・。

 

・・・あれ?」

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「・・・あれ?」

 

「・・・。」

 

「・・・・・・。」

 

「み、見たか?」

 

「あ、ああ。見た。」

 

「いいいいいいい今よ、た、確かに、スマホをちっちゃい女の子に向けてた、よな?し、しかも電柱の影からよ。な、なんかよ、舐めるような視線でよ。」

 

「あ、ああ。かかかかかか、隠し撮りか、かなあ?

図体がでかすぎて、全然隠れてね―けどな。」

 

「つ、つつ、ついて行ってみるか。なんとなく、なんかやましいことしてるっぺえけどよ、事案発生っぽいやつとかだったらオレらでよ、通報しようぜ?良心に従って。」

 

「い、いや待て。こう言う手もある。

 

オレらのガッコのよ、守護神になってもらうのよ。

 

江藤とよ、東京最大の喧嘩族狂乱同盟がバックにつきゃあよ、オレらのガッコに上等切ってこれる奴らなんざいなくなるだろ?

 

オレらでばっちり証拠と弱み握ってよ、江藤に揺さぶりをかけるんだよ。

 

やべえ橋を渡ることにはなるかもしんね―けどよ、あいつがもしかしたら実はロリコンの変態だ、ってことを知ってんのは今、オレらだけかもしれねえ。

 

まだ可能性だけどよ。」

 

「とととととりあえず、尾行してみようぜ。」

 

…コソコソ…

 

きゃっきゃっ。

 

「・・・(じ~~~…)」

 

「・・・。」

 

「・・・・・・。」

 

・・・

 

「ママ!暑いよ~。」

 

「そうね~…。じゃ、礼子、コンビニでアイス買ってあげよっか?」

 

「ホント!?わ~い!!」

 

タッタッタ…

 

ウィ~ム。

 

こそ、こそこそこそ…。

 

「お、おい、江藤の野郎、入ってっちゃったよ。」

 

「や、やり過ぎじゃね?」

 

「あのツラと図体ならよお、コンビニの中ではどう見たって不審者だろ?あの挙動ならよお。な、何考えてやがる…。」

 

「お・ま・わ・り・さ・ん・こ・っ・ち・で・す。」

 

「よ、用意周到じゃねぇか。オレはコンビニの店員が110番する前に電話すっからよ、おめぇは警視庁にメ―ルな。お手柄で金一封どころの話じゃねえ。もしかしたらよ、オレらが狂乱を一気に追い込むきっかけなんか作っちゃってよ。ひ、ヒ―ロ―だぜ?狂乱にバレさえしなけりゃよ。ケ―サツは黙っててくれるもんな?」

 

「い、いや?オレらのガッコはどうすんのよ?」

 

「あ、そうか。も、もう少し様子見るか…。オ、オレらもよ、とりあえずコンビニ入ろうぜ?」

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「あ、ああ…。」

 

ウィ~ム。

 

「いらっしゃいませ~。」

 

「・・・。」

 

「お、おい?江藤の野郎、いねえぜ?」

 

「まままままままさかとは思うがよ、あのガキに欲情するあまり、コ―フン鎮める為にトイレ入って45ってるんじゃ?」

 

「あ、ありうるな…。」

 

ゴクリ…。

 

「おい。」

 

「は、はいいいいいい~!?」

 

「てめえらよお、な~んか、さっきからちらちら視界に入ってたんだけどよお、あ―?なんかオレに用でもあんのかよコラ。こそこそこそこそしやがって。」

 

「(プププププリングルスの種類選んでて、しゃがんで見えなかったあ~?)いい、いいいいいえ、な、何も!?」

 

「何も?なんだよ、ああ!?はっきり言えやコラ。」

 

「す。」

 

「・・・あ?」

 

「す、スマ―トフォンを見せたまえ。」

 

「…ああ?」

 

「あああああ、あなた、あなたねぇ。さ、さっきから見てたら、ち、ちっちゃい女の子にスマホ向けて、と、ととと、盗撮してるでしょ?ほ、ほら、あの母娘。ネ、ネタは上がってるんですからね?」

 

「ば、バカ!」

 

バッ!!

 

「~~~ッ!?」

 

「し、し~っ!!声が、声がでけえ。れ、れ、れ。」

 

「れ?レレレ?」

 

「礼子に見つかっちまうだろうが!!」

 

「…!?か、顔、真っ赤っすね?」

 

「うるせえ!!てめえら、ちょっと来い!」

 

「ひ、ひいいっ!?」

 

・・・

 

・・・・・・

 

「て、てめえらよお…。」

 

「こ、○さないで…。拉致らないで…。わ、悪気はなかったんです…。わ、忘れますから、今日のことは…。な、なあ。」

 

「は、はい。あ、あなた、江藤さんですよね、狂乱同盟の頭の。あなたの心を乱したことは万死に値します!す、すみませんでしたッ!!」

 

「い、いや、だからよお…。う、う~ん、とんだとこ見られちまったよなあ。」

 

「?」

 

「ありゃあ、オレの娘なんだよ。礼子はよ。」

 

「えェ~~~!!」

 

「あっちの母親はよ、節子って言ってな、幼馴染み、いや、幼馴染みだったんだ。苦労かけちまったなあ…。」

 

「た、立ち入ったことを…。い、いや!?いやいやいや?あなたのプライベートに土足で、興味本位で首突っ込んじまって!いや、マジで!!な、なあ?」

 

「え、ええ。マ、マジですみませんでした!」

 

「・・・・・・。

 

・・・じゃあよ、てめえらどこの不良かは知らねえけどよ、少し話に付き合ってもらってもいいか?誰にもこう言う話は出来ねえんだよ。

 

オレは喧嘩に明け暮れてきてそこらじゅう敵だらけ、チ―ムには…、まあ、勿論何人かは気を許せるやつらはいっけどよ。

 

案外てめえら見てるとよ、うちの若え、ビビりだか根性あるんだかよく分からねえやつらと重なるところがあってな。まあ、悪いやつらじゃなさそうな気がしたんだ。」

 

「ま、マジすか?」

 

「いや、天下の江藤さんにそこまで言ってもらえるとは正直…。あ、あんなことしたのに…。

 

え、ええ。オレらみてえなカスで良ければ…。」

 

「節子はうちの近所で一緒にずっといてよ、幼稚園から中学まで一緒でよ。そりゃあ、昔っから可愛くて気立ても良くてよ。」

 

「(だよなあ…。)ええ、ええ。分かります。」

 

「かたやオレあよ、893の家に産まれてよ、あいつに近づく野郎を片っ端からぶん殴ってよ。川に沈めたりしてたんだ。」

 

「(こ、こえ~…。)幼稚園の時とかからそんなだったんスか?」

 

「ああ。幼稚園の時でも小学生の上級生を4~5人簡単にぶっちめてた。

 

だがよ…。

 

節子って、ホントに優しかったんだ。だけどよ、オレがそんなことをすると本気で怒ることもあったんだ。心が開いてんだか閉じてんだか分からねえ。オレの一方的な思いかもしれねえ。」

 

「・・・。」

 

「だがよ。優しいあいつが本気で、オレみてえなやつに怒ることの裏にはよ、あいつのオレへの思いがあった。長くなるけど聞くか?」

 

「(長えのかよ…。)は、はい、勿論です!」

 

「何度も手編みのセ―タ―貰ったり、バレンタインデーにでっけえチョコを貰ったりしてな。最後にゃあ女の子に恥をかかせる気!?って、また怒られた。」

 

「あ、あれ?案外短いっすね。いい話じゃあないすか!ほっこりしましたよ。」

 

「だがよ、基本的にはな、ププププ、」

 

「ププププ?」

 

「ププププラトニックに終わってな。オレはうちの組を継ぐし、それまではチ―ムを組んで、全国を獲ろうと動くことにしてな。泣く泣く袂を分かったんだよ。」

 

「("プラトニック"って…。ガキ産まれてるよね?)そ、そうすか~…。」

 

「で、今日みたいなことになってた、と。」

 

「あ、ああ。だ、誰にも言うなよ!!チ―ムのやつも、そんなには知らね―んだからよ。」

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「(いや、あの図体で尾行してたら色々バレバレだろうに。まあいいか。)で、娘さんなんですが…。」

 

「礼子だろ?な、なあ?か、可愛いだろ~!」

 

「た、確かに。か、可愛いっすね。何歳なんですか?」

 

「6歳だな。オレに似てるだろ?節子にも似てっけどよ!」

 

「(いや?いやいやいや?父親の遺伝の欠片すら感じられね―!!)そ、そそそ、そっすね!!」

 

「6歳だとすると…。え、え~とお二人は…。」

 

「こらこら、仕込んだ学年をカウントしてんじゃね―よ。」

 

「せ、節子さんは、ずっとお一人な、なんでしょうか?それとも誰かと?」

 

「あ―?」

 

「…ひっ!?い、いえ!す、すみません!た、立ち入り過ぎました!」

 

「まあいい。一人で礼子を育ててるよ。おりゃあよ、もうあいつを幸せにはしてやれねぇ。住む世界が違い過ぎるんだ。せめてよ、養育費とか生活の足しに、とは思ってよ、送金なんかはしてるし、たまにゃあ礼子の寝顔を見に行ったりするこたあ、ある。さ、サンタをやったこともあったぜ?」

 

「ま、マジすか!?」

 

「ああ。礼子は本当に、サンタを信じてるんだ。だけどよ…。あいつの寝顔を見れば見るほど、心が抉られていくんだよ。どんなにやべえ喧嘩とかリンチとかよりいてえんだよ。うう…。」

(ゴリラの目にも涙…)

 

(ゴリラも人の親なのか…。ゴリラなのに…。)

 

(礼子ちゃん、バナナとか、好きかな?)

 

「おめえらよお。」

 

「…ウホッ!?い、いや、な、なんでしょか?」

 

「(な、なんだ、"ウホッ!?"って…。"くそみそ"か?)今日の件は見逃してやる。あとはオレに近づくんじゃねえ。なんかよ、見られたくね―とこ見られちまったしよ。

 

だけど、おめえらのツラ見てると、まあわりいやつらには見えねえしな。

 

オレはある程度、手前の敵なのか、味方なのか、どれでもねえのか。なんか、分かるようになっちまったところはある。だから話したんだよ。」

 

「・・・」

 

「わ、分かりましたっ!押し付けがましいかもしれませんが、そこまで言われては男が廃ります!

 

あなたの心を乱したことについての詫びは、あとは行動で示しますッ!あ、あなたにメイクドラマを提供するためにオレら、一肌脱ぎましょう!」

 

「お、おい?おめえ!?」

 

「な、何する気だてめえ…。な、何が分かったんだよ!!れ、礼子に何かする気じゃねえだろうなあ?あ―!?」

 

「いや。単純明快なことですよ。オレらも大概なワル。勿論あなたは大ワル、ワルの親玉です。」

 

「何が言いてえ?ぶっ○すぞコラア。」

 

「話は最後まで聞いてください。オレらがあの母娘に絡みます。オラオラ言いながら。こいつはまあまあ目がつぶらなんでグラサンかけます。」

 

「あ?な、なんかよ、展開が読めるんだけどよ。ベタ過ぎねえか?」

 

「いいんです。ここはハ―トでぶつかるのです。結果にこだわるべきではありません。オレらはハッタリ一筋三百年、早いの旨いのやっすいのがモット―です。だから、まあまあほどほどの恐怖感だけ与え、経験値を活かしヒットアンドアウェイをかましながらあなたの登場を待ちます。」

 

「おお、おめえの言いてえことが分かったぜ。おめえにしちゃあ、ナイスアイデアだ。

 

よし。そこへあなたが満を持しての登場。漫☆画太郎の如しです。でも、地獄甲子園みたいな目には遭わせないで頂ければ幸い。」

 

「・・・」

 

「いいですか?我々はサポートです。主人公は江藤さん、あなたです。ここは肚くくって、オレらを非物理的に蹴散らし、いい感じで対面を果たしてください。あなたは愛の戦士です。」

 

「あ、愛の戦士…。」

 

「あとはあなたの意志。我々は演技力はなかなかのものと自負している。見返りなど要りません、てか、謝罪ですからね。ドンと来い!です。」

 

「お、おめえらよお…。なんかすげえな。お、恩に着るぜ…。」

 

「いい顔です。決心は固まったようだ。では、行きますよ。タイミングを見計らって!季節外れのサンタさんになったつもりで!」

 

「お、応!!」

 

「では、ご武運を!セックス!!」

 

・・・

 

すたすたすた。

 

「あ~あ!くっそあちいぜ!!こんな日はよお、あったけえ人妻の肌が恋しいぜぇ!」

 

「まったくだぜ!汗まみれになってまぐわいたいねえ!お?」

 

すたすたすた。

 

「へっへっへ、いるじゃあねえかよ。お嬢ちゃん、ちょっとあっち行ってな。」

 

「な、なんですかあなたたちは…。」

 

「マ、ママ…。」

 

「人は俺たちを不良と呼ぶねえ。まあ、やりてえようにやり、貪りてえときに貪り、奪いてえ時に奪う。例えば、あんたみてえないい女、とかな。」

 

「け、警察を…。だ、誰か…。」

 

「ムダだぜ?おい。」

 

「おう!」

 

・・・

 

・・・・・・

 

「コラコラコラあ!!」

 

(ゲッ!)

 

「おいおいおい、なんで松高のやつらがここにいんのよ?ここでナンパとかよ、いい度胸してるじゃねえか、ああ?」

 

「おめえら、人妻趣味かあ?随分と町の風紀を乱してくれるじゃないの、ゴミがよお。おうち帰ってよ、ママのおっぱいを吸うか、人妻もんのAVでも観てなあ!!」

 

「う、うるせえ!!てめえらには関係ね―だろが!すっこんでろ!!」

 

「ああ?俺らのシマで喧嘩ふっかけようってのか?おめえら、ナンパはするわ、オレら黒高に喧嘩ふっかけるわでよお、松高ごときがよお。ガッコごと潰されてえのかくらあ。」

 

(くっ!バカ共が!!ややこしくしやがって!に、人数が…。え、江藤さん…。)

 

「さあ、お姉さん、こいつらほっといて、オレらとカラオケでも行こうぜ!ガキは託児所にでも預けてよ。」

 

「はあはあはあ…。コ、コ―フンするぜえ。おっぱいめっちゃでけえじゃねえか!!旦那に毎晩揉まれてんの?ね、ねえ?は、早くカラオケ行こうぜ!」

 

「い、いやああああ!だ、誰かあ!!!」

 

・・・

 

・・・・・・

 

「何やってんだコラあ!!」

 

「!!?」

 

「…ひっ!?」

 

「なななななな、なんですかあなた!?」

 

(江藤さん!)

 

「なんですかじゃねえよ。よほど死にてえらしいな。(ビキッメキッ)」

 

「いいいいいや、いやいやいや!な、何かあなたに御迷惑でも?」

 

「黒高?なんだそりゃ。おめえら皆○しだコラ。オレが誰か分かってんのか!!?」

 

「いいいい!?いえ!わ、分からましぇん!」

 

じょ~~…。

 

(ぶっ、もらした…w。すげえ迫力…。)

 

「み、見たことがあります。と、東京最大の喧嘩族狂乱同盟のヘッド、江藤さん、ですよね?あ、あなたにて、敵対しようなどとは、こ、これっぽっちも思ってましぇん!ボ、ボクらがな、何か?」

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「何か?じゃねえんだよ。そいつあな、オレのカミさんと、そ、その…。」

 

「???」

 

「なんでてめえらにんなこと言わなくちゃいけねえんだよ!!てめえら、ヒキ肉にしてやるぜ、あ―?」

 

「ひ、ひいいっ!?」

 

「き、欣ちゃん!?な、なんでここに!!」

 

「死ねやこらあ!」

 

「う、うわああああああ!!た、助けて!!!」

 

「止めなさい!!」

 

「!?」

 

(え…?)

 

「!!??」

 

「れ、礼子?」

 

「喧嘩しちゃだめ!」

 

「え!?は、はい…。」

 

(江藤が…。な、なんか、借りてきたネコみてえになったぞ!?)

 

「喧嘩しちゃ、ダメだよ…。」

 

「お、おう_。」

 

「おじさん。おじさんのこと、礼子知ってるよ?プレゼントくれたり、ママをとおくから見守ってくれてたり。礼子のことも…。」

 

「・・・」

 

「ママはね?おじさんの写真をずっと見てることがあるの。私、知ってるんだ。」

 

「れ、礼子!?」

 

「おじさん、パパなんでしょ?」

 

「~~~ッ!!!れ、礼子、知ってたのか?い、いつから?」

 

「わかんない。でも、わかるよ。おじさん、パパの匂いがするもの。とっても懐かしい匂い。

 

いつも、見守っててくれて、ありがとう。」

 

「れ、礼子…。」

 

「そしてね、喧嘩しちゃだめ。礼子のパパ、すごく強くて優しいんだもん。」

 

「・・・。」

 

「分かりましたか?」

 

「は、はい…。」

 

「よしよし。(なでなで)」

 

「はあうっ!?❤️」

 

(江藤が…。あの江藤がビクッ!?ってなったぜ?ま、まじかよ…。暴力大王がなんだか忠犬ハチ公みてえに…。)

 

「て、天使…。」

 

(ぶっ、何言ってやがるw。)

 

(ば、バカ!笑ってんじゃねえ!)

 

「節子…。」

 

「欣ちゃん…。」

 

・・・。

 

「オレあよ、オレあ…。ま、まさか、礼子がよお…。」

 

「私もよ。礼子、時々パパの話とか、絵とか描いてたのよ。絵にあなたの面影があったわ。そうね…。そんなにおっきな背中だもんね。サンタさんのふりしたって、バレちゃうか…。くすっ。」

 

「節子…。おりゃあ、どうすれば…。肚あ、決められなくなってきたぜ、情けねえ…。あん時、未練は絶ったつもりだったのに…。一日たりとも、一時でも、お前たちのことは忘れたことがねえんだ。」

 

「・・・。・・・いいえ。あなたは、あなたらしく、あなたの道を行くんでしょ?」

 

「あ、ああ。今さら、引き返せねえとは思う。だ、だけどよ、もう一回、やり直せるならよお…。」

 

「欣ちゃん。」

 

「あ?」

 

「私ね。実はね、欣ちゃんが送ってくれたお金には手を付けてないの。私は私のやり方で、この娘を立派に育てて幸せにしてあげたい。気持ちだけで充分よ…。」

 

「な、なんでだ!?お前、疲れた顔してるのが分かるぜ!いくら意志のつええお前でも、もたねえぞ!!オレがそっち側へ行けねえんなら、オレのこたあいい!誰かいいやつを見つけろ!お前はお前で幸せになれ!オレはカネを送るとかしか出来ね―からよ!た、頼む!!」

 

「欣ちゃん…。お金に綺麗も汚いもないのかもしれない。でもね、やっぱり、人様に御迷惑をかけて得たお金で、私たちは幸せになってはいけない気がするの。気持ちだけもらって、あなたにお返しするわ。学生さんとかにお金集めさせたりもしてるんでしょ?」

 

「わ、分かった!分かったよ!893なんか継ぐのはやめる!真っ当に稼いでやり直す!知り合いの土建屋もあるんだ!!れ、礼子は…。」

 

「ムリよ欣ちゃん。それじゃあ欣ちゃんは、命の危険すらある。あなたが積み重ねてきたことは、それだけ重いと思う。あなたはそっちの世界で生きていかないと、抑止も利かないし、義理も責任もお役目も果たせないんじゃなくて?仮にあなたがそれで良くても、お家のことも組の方々のこともあるんでしょう?」

 

「…ッ!?」

 

「だから、あなたはあなたの道を進んで。私は、私の道を行くわ。でも、心まで離れる訳じゃない。あなたをずっと愛しています。これからも、ずっと…。」

 

「う、ううう…。」

 

「礼子。パパにさよならを言いなさい。」

 

「パパ…。喧嘩しちゃダメだよ?」

 

「ははは…。そりゃムリだ礼子。パパは喧嘩しか能がねえんだからなあ。ホント、ダメなパパですまん。ママと幸せにな。」

 

「うん!」

 

「節子…。れ、礼子はい、いい娘に育ったなあ…。」

 

「そうね…。いい娘に育ったわ。あなたと私の娘ですもの。」

 

「苦労、かけちまったな。そして、これからも…。」

 

「そんなあなたを私は好きになったのよ。後悔はしていないわ。」

 

「じゃ、じゃあな。」

 

「じゃあね、欣ちゃん。」

 

「パ、パパ…。また、サンタさんしに来ていいんだよ?」

 

「ははは、夢のね―こと言ってんなよ、礼子。幸せにな…。」

 

「うん!バイバイ!!」

 

「・・・」

 

「・・・・・・。」

 

そろ~り…。

 

「おい。」

 

「ひっ!?」

 

「なんか、白けちまったよ。おめえら、帰れ。」

 

「は、はいい~ッ!!」

 

ダダダダッ!!

 

・・・

 

・・・・・・

 

くるっ。

 

「お、お前なんか!アムールトラに喰われちまえ!」

 

「お前のか―ちゃん肉○器~!」

 

ぴゅ~!!

 

「(ア、アホかあいつら…。なんちう捨て台詞だ…。)あ、あいつら、あんなこと言うてましたぜ?バカなやつらだ…。」

 

「・・・そ、そんなこと言わなくてもいいだろ・・・。なあ。」

 

「(じ、地味に凹んでる。)そ、そうっすね。」

 

「な、なんか、余計なことをしてしまった気が…。もう、埋められても仕方がないです、な、なあ?」

 

「は、はい…。」

 

「何言ってやがる。

 

おめえらとはもうダチだ。ありがとよ。

 

早いか遅いかの違いだけだったんだ。気持ちが溶けた気がするし、おめえらの気持ちも嬉しいんだよ。

 

まあよ、これからおめえらにあいつらが粉かけてきたり、どこかがちょっかい出すようなことがあったらよ、オレらが駆けつけてブッ潰してやっからよ。」

 

「(き、き、き、来た―!!なんだこの展開?)ま、まじっすか?あの、天下の狂乱同盟の!?」

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「器でけえっすね…。」

 

「おりゃあもう半年ちょいで引退だがよ。そんなに跡目で揉めてる訳でもなくてな。オレの後を継ぐ鬼頭にゃあ、おめえらのことは伝えておくからよ。」

 

「あああああありがとうございます!」

 

「じゃあよ。」

 

「はい!」

 

・・・

 

・・・・・・

 

「な、なんか、すげえ一日だったな。」

 

「夢オチとか、ね―よな?」

 

「いや。ねんじゃね?」

 

「じゃ、けえるか。」

 

「礼子ちゃんにバナナの差し入れ、しなくていいかな?」

 

「まだんなこと言ってんのか。」

 

/fin