蒲焼きと檸檬と娘のサロン

「頑張らないうつヌケ」をモットーに。だる~く、ゆる~く、時にはタイトにチートに。

激動の時代。

 

「どうもこんばんは~。お邪魔しますよ~。」

 

 中にひと声かけ返事がないのは気にはなったが、とにかく中に入ることにしたのです。

 

 ずぼっ。

 

 「・・・ずぼっ?」

 

 「うわあああああああ!」
 
 奈落の底へ落ちてゆく隊員たち。
 
 「ふふふ私はユートム。みんなこのモンスターハウスの生きに餌になるのさあ!」

 

 ふいに現れる異形。「き・貴様あ!」

 

 「ふふふ、怒り悲しみ恐怖、全てのネガティブな情念と絶望こそ我が糧。増幅させ肉をも引き裂き喰らいつくしてやる!みんな死ねえ!」

 

 「それはそうと、パンツ返してもらえます?」

 

 「・・・え?」

 

 「いや、パンツですよパンツ。盗ったのあなたでしょ?防犯カメラに写ってたんです。あれ、うちのBBAの。」

 

 「ぐ・ぐお!?ぐおおおおおおお!?貴様ああ!ダマしたのかあ!あんな可愛いパンツで釣りやがったのかああ!」

 

 「いや、ダマしたもなにも。リサーチ不足ですよ。自業自得ですね。今日はそれで来ました。」

 

「私は…。私はッ!もう色々!いろいろとッ!楽しんだのだ!嗅いだり、あらぬ妄想をしたり被ったり丸めてトスしたり!どうしてくれるんだよカネ返せ!」

 

「(えっ、カネって…)知ったこっちゃありませんな。」

 

「・・・。」

 

「・・・。」

 

「・・・え~…。」

 

「はい?」
 
「え、え~と。いい夢見させてもらいました。ナイス☆パンティ。」

 

 「そうそう。みんなハッピーになるのが私の願いです。あと隊員返して。一応雇うのもただじゃないんで。」

 

 「あ、そうですか。分かりました。すみませんでした。本当・・・。」

 

 (あまりのショックに善人になり解脱したのだな。よかよか)

 

 「わっはっは!さあ、一杯やりましょう!強く生きなさいよ。」

 

3時間ほど経過しただろうか…。

 

ユ―トムのモンスターハウスは矯声で溢れ、様々な異国の色とりどりの料理と酒が並び、そしてとてもハ―トウォ―ムなム―ドが漂っていた。

 

「わははバカヤロ―、おいユ―トム、酒が足りねぇぞ、もっと酒持ってこい!」

 

「はいはい、はいよっ。」

 

「ふむ。なかなかその紳士喫茶コス、お似合いじゃあないですか。でね、さっきの話の続きなんですが…。」

 

「いやね隊長さん、私の好みは違うのですよ。ロングのストレートなんかもいいとは思うんですが、私はどちらかと言うとちょっとだけクセのあるボーイッシュなショ―トの娘さんが好みでしてね。実はその…。この屋敷の奈落の底には一応落としたんですけど、実はだあれも死んでないことにすることも出来るんです。これでも一応は蘇生の魔法の心得なんかもありますのでね。ショ―トの娘さんは特に、一杯さらってきちゃいましたからねぇ…。本当に罪深いことをしたものです。皆さんを甦らせましょう。せめてものお詫びです。」

 

「ほう?そりゃあ立派なお心がけだ。是非ともお願いしたい。」

 

「はい。で、こちらの珠に今までこのモンスターハウスの犠牲になられた方々の魂が入っております。私のイメージを具現化して彼ら、彼女らの肉体を組成し、そこに魂を吹き込む、と言う流れになります。」

 

「なるほどですね。う~んなんだかざっくりと、綺麗なモンスターボールと汚いモンスターボールがあるような感じですが、これは一体?」

 

「概ね、綺麗な方は男性、汚い方は女性と思っていただければ。」

 

「(人間の男と美的感覚が真逆なんかな?)で、どんな感じで進めるのです?是非立ち会わせていただきたい。」

 

「了解しました。蘇生魔法の呪文は我々魔族の間では門外不出とし本来であれば、公にすることは出来ません。しかしながら今回は特例。魔王様もお許しくださる。では、皆様の肉体を具現化し・・・。」

 

「お、おおッ!(女の人がみな全裸やあ~。・・・男もだけどまあしゃあないか。そっちはなるべく見ないようにしとこ。)」

 

「では、呪文の詠唱を始めてまいります。」

 

「ふむ。」

 

・・・

 

・・・・・・

 

・・・し~…ん…

 

「・・・。・・・そげそげさ~ にんにきわっぴぃ とるね―どぉ その恥辱にまみれたあ~ 自分のことはあ 後にするう~」

 

「(だっさ…)」

 

「時代遅れの男になりたい~ せやっ!」

 

ボンッ!

 

「…はッ!?わ、私は一体?こ、ここは…。」

 

「いやっ!?なぜあたしハダカなのっ?」

 

「ぐへへ…。おい姉ちゃん達…。オレのあそこがこんなになっちまったのはお前らのせいだあ…。ちょっと身体で詫び入れてもらおうか?」

 

「きゃあ!?何してんのよ!(バシイッ!)」

 

「あ、あんたっ!何他の女に手~出してんのよ!」

 

「おらあっ!いい男は全部俺様のもんだあ~!」

 

ギャ―ギャ―!!

 

「・・・うわあ・・・。」

 

「す、すみません…。身内の方々の喧嘩や痴情のもつれみたいなところまではさすがに…。」

 

「いやいやよくぞやってくださいました。まあ、人間が一番怖くて汚くて醜いってことですな。さながらドタバタ人間動物園ですなあ。みんなパンツも履いてないし。チンパンジーの喧嘩みたいになっとる。」

 

それから数時間が経った。

 

中立の立場にあった隊長以下隊員たちの説得や仲裁などにより、何とかいさかいは沈静化してゆく。まるで「風の谷のナウシカ」の終盤を見ているかのようだった。

 

彼ら、彼女らはそれぞれの帰るべきところへ帰ってゆく。その光景はさながら、世界平和の縮図のようである。みんな全裸だけど。

f:id:shirosuke0214-pr-tomo:20210519215629j:plain

「おお、なんと神々しい…。これが人の友愛なのですね?私もこうしてはいられない!今までの罪滅ぼしもございます。ここはぜひ、あなた方のお仲間の末席に加えさせていただき、この平和活動を世界中に伝播させるよう微力を尽くしましょう!」

 

「い!?いや、いやいやいや!我々は、そこまでスケールの大きいことは指向しとらんのです。まあせいぜい、街の酔っぱらいの喧嘩の仲裁くらい、かなあ?わ、わはは!あなたはあなた方のボスに制裁を加えられたり危害を加えられることはないのですか?(ぜ、善人になるにもホドがあるやろ!?このスケベ!)」

 

「私は大丈夫です。この崇高にして慈愛に溢れた利他行には魔王様はじめ誰しも賛同する筈です。これから説得にあたります。」

 

「す、すごい自信ですな・・・。ま、まあ、せいぜい頑張って下さい。じゃあ、任務が終わりましたので、私はこれで。」

 

「隊長さん!皆さん!あなた方にお会いできて本当に良かった!また、いつの日かお会い出来ますよね?」

 

「さ、さあ、どうですかな・・・?で、ではさいなら~。」

 

翌日。ユ―トムは迅速に行動を開始した。

 

ユ―トムとて最初からこんな、魔族の行動原理とは全く真逆のこうした理想がスムーズに進む筈はないことは分かっていた。しかし、彼はけして諦めなかった。自分を、他者を信じ、地道に署名活動から始めた。

 

魔族は所詮は魔族だ。皆一様にユ―トムに奇異の目を向け、ある者は嘲り、ある者は陰口を叩く。

 

おおっぴらにユ―トムの妨げとなる者が少なかったのは、ユ―トムがもともとまあまあ人望が厚かったこと、魔力やポテンシャルがとても高かったこと、そして多くの者が情報通のユ―トムからエロいコンテンツやらエロ本やらを回してもらっていたからに他ならない。

 

やがて、ユ―トムの地道な活動は少しずつ、魔族の心に染み入り、その理念が浸透してゆく…。一人、そしてまた、一人…。

 

やがて。3日もすると、ユ―トム派は魔王も無視出来ない程の大きな勢力となる。

 

魔王もまた、ユ―トムに前に回してもらっていたエロいコンテンツをよくオカズにしていたくちなので、籠洛されてもおり少々自分の良心の呵責に困惑してもいた。

 

魔族に時空の概念は希薄であった。そうこうしているうちにも、人間の常識を遥かに超越する勢いで、ユ―トムの慈愛は世界に伝播していく。

 

「う~ん…。今でこそあいつ何だかヘンなことやってるけど、う~むむ、何だかやりづらいんだよなあ…。」

 

魔王はユ―トムから前に回してもらっていた優良熟女ものサイトを視聴しながら一人ごちていた。

 

やがて5日が経ち、ユ―トム以下様々な種族が坩堝と化して魔王城を席巻し、ユ―トムは署名状を魔王に差し出す。魔王の表情と感情は複雑であった。

 

「ユ―トムよ…。お前さんの熱意は充分に伝わっている。ま、まあ、私も心の底まで鬼畜な訳ではないし、別に人間風情が敵対するから少々事を荒立てていただけで、と、特には争いやいさかいを好む訳ではないのだよ。わ、分かった分かった!そんな目で見なさるな。私はお前さんを大層気に入っていたし今でもそうなのだ。これからも私に仕えてくれるなら、力を貸そうではないか。な、なあ?」

ユ―トムの一つの理想が実現された瞬間であった。

 

ここから先は、魔王が陣頭指揮を執りそして、ユ―トムが官房長官的な立ち位置となる。彼らの側近には選りすぐりのエリートが配属され、瞬く間に事業は拡大してゆく。

 

しかし、ユ―トムは慈愛に満ちていたので、人々の骨肉の争いの類いに目を背けがちであった。魔族の法の番人や政治、行政がバランスよく機能し、それらの三大勢力は大き過ぎずまた小さ過ぎず、極めて手際よく人間界は再構築されていく。

 

「ユ―トム様、お疲れ様です。もうあなたの大望は達成されました。おめでとうございます。ささ、こちらへ。ふふ、奥ゆかしい貴方らしい。派手な演出や宴の類いを好まれず、御自身のモンスターハウスで質素に祝いの宴を催されるとは。」

 

「私などけして、特別な者でもなんでもないのだよ。これで良いのだ。あの時の大恩ある方々は是非、この屋敷にお呼びしたいものだが…。」

 

その時である!

 

荒々しくモンスターハウスの扉が開け放たれた!

 

「おらあ!」

 

「ど、どうされたんですか隊長さん!隊員の皆様も!そんな、Vシネマに出るみたいな出でたちで!隊長さんなんか竹内力さんさながらじゃないですか!?」

 

「どうもこうもねえだろう!?ユ―トムのぶんざいでよお!な~に手柄を独り占めしたみてえな感じでチヤホヤされてやがる!元々は誰のおかげだと思ってやがんだ!俺ら…。いや、俺だろお!?ああ?」

 

「・・・。・・・致し方ありませんね・・・。」

 

元々は彼ら隊長はじめ隊の戦闘力と魔族の戦闘力とでは、戦闘力5のおっさんと破壊神ビルスくらいの差があったので、結果的に彼らの邪気はあっと言う間に祓われてしまうのであるが。

 

こうして、神々によって7日で創られた世界は、魔族の手によってアバウトに7日ほどで平和に導かれたのであった。

 

その一部始終を天空から眺めていた神は柔和な微笑みを浮かべた。

f:id:shirosuke0214-pr-tomo:20210519215658j:plain

「計画どおり。」/Fin